「収益認識の実務 影響と対応」(新日本有限責任監査法人[編])
2021年1月は、「収益認識の実務 影響と対応」(新日本有限責任監査法人[編])を紹介します。
- 概要
- 本書を選んだ理由
- 書評
概要
従来、日本の会計基準では、収益は「実現主義に基づいて計上」する旨を「企業会計原則」第二 三Bで規定されていたものの、具体的な収益の金額や計上時期の決定方法を定めた基準が工事契約・ソフトウェア取引以外になく、詳細な計上方針は企業や業界の慣習に従っていました。
一方で、近年はIT業界をはじめ、企業の収益獲得の方法は多様化しており、各企業がどのように収益を計上しているのかを明確にすることが、投資家等の財務諸表利用者の理解に資するという観点から、2018年3月に包括的な収益認識の基準が公表され、2018年4月から任意適用、2021年4月から強制適用となりました。
本書を選んだ理由
公認会計士をはじめ、会計に携わる方であれば来期(2021年4月~)から収益認識基準が強制適用されることは皆さんご存じかと思います。新基準の強制適用に向けてすでに準備も進んでいる頃かと思います。新基準が公表されると4大監査法人からそれぞれ解説本が発行されますが、各公認会計士が知りたい内容や担当するクライアントとの適合性もまちまちであると思います。
私も新人時代に収益の詳細な計上基準がないために監査上適正な収益と言えるのかを判断する際に苦労した記憶があります。収益認識基準は新しい用語や概念が多いため、それらの説明に多くの紙面を割いている書籍が多い中、本書は業種別にこれまでの収益認識の慣習との対比で新基準の解説を行う形式で書かれており、具体的に「何が」「どのように」変化するのかが明確に書かれています。
公認会計士は監査クライアントに新基準の内容やクライアントの会計処理への影響の説明を求められる場面が多いため、従来の考え方と新基準の考え方の対比ができると非常に役に立ちます。本書は4大監査法人の書籍の中で最も監査法人のニーズに適合していると判断したため、選択しました。
書評(★は最大5個、最低1個)
- 専門性…★★★★★
収益認識基準を網羅的に説明しています。かつ、業種ごとの収益認識の慣習や具体的な開示例まで紹介してあり、専門性は十分です。解説には逐一参照基準が引用されており監査六法の検索にも便利です。
- 読みやすさ…★★★
基準を網羅的に説明しているため、業種ごとに同じような説明が繰り返され、通読するには読みづらいです。自分のクライアントが属する業種の部分だけ参照するには読みやすいでしょう。
- お役立ち度…★★★★★
先に書きましたが、従来の実務がどのように変化するのかを旧基準と新基準の対比で説明してあるので、クライアントに説明しやすいという点で監査実務には非常に役立ちます。
- 価格…★★★★
税抜3,600円です。一般に会計の専門書は税抜4,000円以上の価格帯が多いのですが、少し安めです。